KIMONO AGENCY

着物は日本人のアイデンティティー

 

アメリカでも着付けの資格が取りたいという生徒さんの願いから、

私がロサンゼルスで着付けを教え始めたのは二〇〇六年、今から六年前である。

「アメリカで着付け?」と違和感を持つ向きがあるかもしれないが、意外にニーズは高い。

毎年プロの着付け師を育て上げ、今までに三十人以上が着付け師免許を取得している。

資格を取得した卒業生の一人に七十四歳の白人男性がいる。

着物コレクターの彼は、着物を絵画と同じように一枚のアートとして楽しんでいるのだ。

以前、彼に尋ねたことがある。「なぜ着物が好きなのか?」すると彼は

「着物は世界で一番美しい衣装の一つだ」となごやかな笑顔で答えた。

四百年前に形が決まったとされる日本の民族衣装は、現代でも世界最高峰の技術を保持し、

世界中の人の目を引く美しさを誇っているのである。

すでに、ただの民族衣装ではなく「Wearable Art」、つまり「身にまとう芸術」なのだ。

 

[クラシックだけでは世界で通用しない]

着付け教室だけでなく、「KIMONO SUEHIRO Agency」という着物レンタルと

着物コスチュームデザイン会社を立ち上げ、日々の業務を通して着物文化の普及にも貢献している。

アメリカ在住のアジア人女性で一番美しい人を決める「ミス・アジア・USA」で、

日本代表のナショナルコスチューム制作を二年前から担当している。

初年度は伝統的な振り袖で勝負したが、入賞には至らなかった。

振り袖や打ち掛けは豪華絢爛だが、 スパンコールやフェザーを使った他国代表者の衣装には、

派手さで敵わなかったのである。

伝統は伝統で大事だが、新しいものをうまく取り入れていかないと、

これから先良いものはできないと痛感した。

そこで翌年から、トラディショナルの良い部分だけを残し、

新しいスタイルのヴィクトリアン風着物ドレスをデザインして臨んだ。

結果は三位入賞、フォトジェニック賞もダブル受賞した。

二十五年の歴史があるミスコンで過去、日本人が十位以内に入賞したことはなかった。

その衣装がメディアで話題をよび、

毎年、総領事公邸で行われる天皇誕生日祝賀レセプションで披露してほしいと、

総領事館からご招待をいただいた。

着物コスチュームという新しいジャンルが総領事館に受け入れていただけたのは、私の自信につながった。 

 

  

                                     新美総領事と一緒に総領事公邸にて

[海外に住まない日本人]

着物を褒められる嬉しさは、「信頼と実績のジャパニーズ・ブランド」の誇らしさによく似ている。

とにかく壊れない「安心(ブランド)」を世界レベルで成功させている。

世界でここまで、自己紹介をしなくともアイデンティティーのある民族は珍しいのではないだろうか。

日本人というだけでこれほどのブランドネームが与えられ、優秀な人材として扱われるのだ。

日本人の海外移住率は世界ワースト二位だという。世界を舞台にしないのはもったいない。

言語の問題や仕事の関係で移住は難しいと諦めてしまってはいないか。

世界に羽ばたく気持ちがあれば移住も選択の一つ、ぜひトライしていただきたい。

準備は今からでも遅くはない。私は四十歳間近で単身アメリカに移住した。

「世界は考えているより 面白い」———これは十年以上海外の生活をしてきた私からのメッセージである。

世界を知ることが自殺や鬱病の解決策の一つにはならないだろうか。

世界における日本人のアイデンティティーの素晴らしさを知ることで、

日本人であることを誇りに感じ、それが己の自信にもつながるのだ。

 

コスチュームデザイナー

押元 末子

(山野流着装教室 カリフォルニア支部事務局長 準皆伝)

(YamanoryuKisou CA branch Executive Director Junkaiden)

エルネオス誌 12年6月号掲載

日刊サン 12年11月29日号掲載

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